法律相談事例
労働問題に関する相談
【労働者側)解雇された場合】
- 会社から、「解雇する」と言われました。「労働基準法どおりの解雇予告手当は支払う」とのことですが、従わなければならないのでしょうか。
- 解雇は、使用者と労働者の労働契約を、使用者の側が一方的に解除するものです。契約を、当事者が一方的に解除することは原則として許されず、労働契約の一方的な解除である解雇をするには、合理的理由が必要になります。労働契約法の第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。
労働基準法20条1項には、解雇予告のことが定められており、解雇しようとする使用者がこの規定を守らねばならないことは当然です。しかし、この規定を守っていればどのような解雇でも法的に有効になるのではなく、解雇予告の問題とは全く別に、解雇には、合理的理由が必要なのです。
会社に「解雇する」と言われたら、まずは会社に解雇理由を説明させましょう。「リストラだから」とか「不況で苦しいから」という抽象的な説明で終わらせないで、具体的な理由を求めることが大切です。「勤務成績不良」が理由だと言われたら、いつのどのようなことが勤務成績不良にあたるのか具体的に説明を求めましょう。
また、解雇された後の労働審判や訴訟に備えて、会社側の解雇理由の説明は記録に残すことが大切です。例えば、会社に配達証明付き内容証明郵便を送って解雇理由の説明を求め、使用者から郵便で回答してもらうという方法もあります。
その上で、納得がいかなければ、弁護士に相談されることをお勧めします。
【(労働者側)賃金の不払い】
- 仕事をしたのに会社が賃金を支払ってくれません。どうしたらよいでしょうか。
- 給与所得税の源泉徴収、社会保険料の控除などの例外を除き、賃金は、全額を支払わなければならないことが規定されています(労基法24条1項)。
支払わない場合は、労基法違反となり、罰則もあります(労基法120条1号)。
したがって、この労基法違反について、所轄の労働基準監督署に申告すると、労基署が使用者に対して調査して賃金支払いを勧告し、その結果賃金が支払われる場合があります。
労基署への申告は、文書ですることをお勧めします。また、その際に、未払賃金額算定の裏付けとなる資料(賃金規程、給与明細書、労働時間記録、業務記録など)を添付すると、労基署担当者にスムーズに理解してもらうことができると思われます。
労基署への申告によっても、未払賃金が支払われない場合、裁判所の利用が考えられます。その場合は、裁判所に未払賃金請求訴訟を起こすということになります。
未払賃金の額が140万円以下の場合は簡易裁判所に、140万円を超える場合は地方裁判所に提訴します。弁護士に委任せずに自分で訴訟を起こすこともできますが、弁護士に依頼し、弁護士を代理人として訴訟を起こすことも検討してください。
【(労働者側)セクシャルハラスメントを受けたとき】
- 上司から、すれちがいざまに背中をさすられたり、話している時に肩に手をかけられたりします。
私はとても嫌で、会社にも行きたくないくらいなのですが、同僚の女性に相談しても、「挨拶代わりだから我慢しようよ」と言って取り合ってくれません。これは、セクハラに当たらないのでしょうか。また、会社に防止策を求めるには、どうしたらいいでしょう。 - 「セクシュアルハラスメント」は、「相手方の意に反する性的言動」と定義されます。性的言動に対する受け止め方に、男女差、個人差があることを前提とし、セクハラ概念の意義は、こうした性的言動に対する多様な感受性を尊重し、誰もが良好な環境で働けるようにしようというところにあります。したがって、セクハラに当たるかどうかは、基本的に被害者の主観を基準とすることになります。ご相談の事例は、客観的に考えても、あなたの感じ方を考えても、セクハラに該当することは明らかです。
男女雇用機会均等法では、事業主に、セクハラ防止のための「措置義務」が課されています。事業主(会社)は、①職場におけるセクハラに関する方針を明確化し、周知啓発すること、②被害を受けた労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること、③セクハラが起きたときに、迅速かつ適切な対応をすること、これらとあわせて④申告した被害者のプライバシーを守ることや被害者を不利益に取り扱わない措置をとることが義務とされています。会社がこれらの義務を怠っている場合には、都道府県の男女雇用機会均等室に通報して行政指導をしてもらうことも可能です。
【(雇用者側)解雇したい場合】
- 社員を解雇したいのですが、どうしたらいいでしょう。
- 会社は、従業員を自由に解雇することはできません。そのため、会社側が一方的に労働者を解雇した場合には、様々な法的問題が発生する可能性があります。
解雇とは、使用者と労働者の労働契約を、使用者の側が一方的に解除するものです。契約を、当事者が一方的に解除することは原則として許されず、労働契約の一方的な解除である解雇をするには、①合意による退職、②普通解雇、③懲戒解雇などの手続を、適法に行う必要があります。
①合意による退職は、会社が労働者に対して退職を勧め、労働者の合意を得た上で雇用契約を終了させるものです。あくまで労働者の同意を得て行うものですが、表面上同意を得たと思っていても、後に不当解雇であったなどと主張されるおそれがありますので、交渉の過程などを記録化しておくなど慎重な対応をとる必要があります。
②普通解雇は、労働者の健康状態、能力、勤務態度などを考慮して、解雇理由が合理的で、かつ、解雇が相当と認められる場合に許されます。
労働者の能力不足や不行状等の程度がよほどの場合でない限り解雇が無効であると判断される可能性が高いので、どのような場合に普通解雇が許されるべきかについては慎重に判断する必要があります。解雇を検討される場合は、事前に弁護士に相談するのがよいでしょう。
③懲戒解雇は、懲戒処分としての解雇であり、懲戒処分のなかで最も重い処分です。懲戒解雇は、労働者の名誉・信用にもかかわりますし、退職金の不支給など労働者の被る不利益も大きなものとなりますので、特に慎重な判断が必要とされます。また、懲戒解雇をするためには、就業規則に懲戒事由を定め、周知徹底しておくことも必要です。労働者に懲戒事由があると判断された場合でも、懲戒解雇を行っても問題ないかどうかは、事前に弁護士に相談することをお勧めします
【(雇用者側)労働審判を申立てられた場合】
- 裁判所から裁判所から労働審判手続申立書が届きました。どのように対応したらいいでしょう。
- まず、労働審判手続申立書に記載された請求内容を確認しましょう。その内容が明らかに不当であると思われても、裁判所からの呼出しを無視することはできません。
期日に出頭し、適切な反論を行うことが必要です。以下、労働審判の手続についてご説明します。
労働審判手続は、2006年に始まった紛争解決制度です。不況が続き使用者と労働者の個別労働関係紛争の件数が増加していく状況を受け、紛争を迅速に解決するために生まれました。
使用者と労働者の個別の労働紛争について、各地方裁判所に設置された労働審判委員会が審理を行います。労働審判委員会は、裁判官である労働審判官1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(使用者側、労働者側各1名)で構成され、審判官・審判員は当事者本人や重要な関係者に対して直接口頭で意見や事実関係を聴取することができることになっています。
労働労働審判手続は、労働者側が地方裁判所に労働審判手続の申し立てをすることにより始まるのが通常です。申し立てが受理されると、原則として40日以内に第1回期日が指定されます。
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結することとなっています。3回の期日の中で、労働審判委員会から調停案が提示されることがあり、労働者と使用者の側で調停案の内容で合意ができれば、その時点で労働審判手続が終了します。調停が成立しない場合には、労働審判委員会が審理を終結する宣言をし、労働審判を行うことになります。労働審判は、それまでの期日において提出された証拠や関係者の話を聞いた内容を踏まえて労働審判委員会が下します。下された労働審判に対して当事者のいずれかが2週間以内に異議を申し立てなければ、労働審判は確定し当事者は労働審判の内容に従和なければならなくなります。う必要があります。異議の申し立てがあれば、労働審判は効力を失って訴訟に移行し、訴訟手続きとしての審理が行われることになります。
労働審判は原則3回の審理で終結しますので、1回1回の期日が非常に重要になります。その中でも第1回目の期日が特に重要です。労働審判を申し立てる労働者側が弁護士に依頼する場合は、申立までに入念な準備をしています。他方、使用者側は、労働審判手続申立書が届いてから証拠や証言を集め始めて、第1回期日までに答弁書を作成しなければなりません。
申立てを受けたら、極力速やかに弁護士に相談することをお勧めいたします。
このように迅速な対応が必要な労働審判ですが、これをうまく利用することで、使用者側にもメリットがあります。それは、訴訟と比べて労働紛争を迅速に解決できる点です。
申立てた労働者側は、調停による迅速な解決を希望している場合が多いですし、労働審判委員会も通常調停による解決を目指しています。使用者側が適切な対応をすれば、使用者側も納得できる調停案を引き出せることが多く、労働審判を一つのチャンスととらえて取り組む姿勢も重要だと思います。
【(雇用者側)団体交渉の要求があった場合】
- 従業員が、○○ユニオンという労働組合に加入したとのことで、○○ユニオンから団体交渉の申し入れがありました。どう対応したらいいでしょう。
- 団体交渉とは、労働者の集団である労働組合が使用者と行う交渉を指します。労働組合には、大別して、会社の内部で組織された労働組合(企業別組合)と会社の外部で組織された労働組合(ユニオンと呼ばれることが多いようです。)の二つ分かれます。今日、企業別組合と会社が対立することは少なく、会社の労働者が、労働問題で会社と対立する場合には、労働者がユニオンに加入し、団体交渉を申し入れてくることがよく行われます。労働者が労働組合に加入することは自由であり、加入した労働組合から申し入れがあった団体交渉を、使用者は拒否することができません。
ユニオンと呼ばれる労働組合は、企業別組合が存在しない会社の従業員が、会社との労働問題が発生してから加入することが多い労働組合です。
そのため、当該組合員個人の利益を最大化する形で団体交渉を行う傾向にありますし、一般的に、企業内組合と違って、会社との信頼関係を前提としませんので、中には、合理的でない要求をしてくる場合もあります。また、ユニオンの担当者は、労働問題に関してそれなりの専門的知識を持っている場合も多く、会社にとっては、手ごわい相手です。
ですから、ユニオンからの団体交渉の要求があったら、その内容が正当なものかどうかを判断し、どのような対応をすればいいかのアドバイスを受けるため、弁護士に相談されるのがよいと思います。