法律相談事例
商取引、企業経営、事業承継に関する相談
【継続的取引の一方的中止】
- これまで継続的に物品を納入してきた相手方会社から、突然、今後は他社から購入することにしたという言われて取引を打ち切られたが、何か対応手段はないか。
- 継続的な取引を行う旨の契約がなされており、相当期間取引が継続していた場合、一方当事者が相当な予告期間をおくことなく取引の継続を拒否することは許されず、相手方による取引契約解除が認められない可能性があります。どのような事情が存在するかの具体的な判断が必要となります。
【取引先の倒産と動産先取特権】
- 取引先が突然倒産してしまいました。売掛金を回収する手段にはどのようなものがあるでしょうか。
- 取引先が倒産し、破産手続が取られる場合、裁判所が選任する破産管財人が破産者の財産を換価し、それぞれの債権者に平等に配当することになりますが、その配当率は高くなく、ゼロの場合もしばしばあるため、一般に売掛金の回収は非常に困難です。
もっとも、取引先に動産を売却し、その売掛金が未払いの場合、売却した動産から優先的に代金を回収しうるという先取特権があります(民法第311条、第321条)。
この動産売買の先取特権は、破産手続とは関係なく権利行使をして、優先的に弁済を受けられる権利(別除権)として扱われます。また、売却した商品が第三者に転売されている場合でも、その転売代金が相手方に支払われていないときは、転売代金を差し押さえ、優先的に回収することができる場合があります(物上代位、民法第304条)。
具体的にどの手段をとり得るかについては弁護士にご相談ください。
【コンプライアンスと下請法による規制】
- 小規模の製造業を営んでおり、大手元請業者からの下請をしていますが、納品した製品を元請業者から一方的に返品されたり、代金を一方的に下げられたりといった理不尽な扱いを受けることがあります。このような行為を規制する法律はないのでしょうか。
- 資本金の額または出資の総額が一定額を超える「親事業者」(法人のみ)と、親事業者よりも規模の小さい「下請事業者」(法人または個人)との間の「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の取引に適用される法律として、「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)があります。この法律により、親事業者が優越的地位を利用して不当に安く買いたたいたり、発注後に代金を減額したり、下請け業者に責任がないのに返品したり、代金支払を遅延したりすることは禁止されています。
そして、親事業者が下請法に違反した場合、公正取引委員会から、違法行為の取りやめ、下請け業者の被った不利益の原状回復、再発防止措置などの勧告がなされます。
その場合、企業名や違反事実の概要などが公表されます。違反の内容によっては、罰金刑が科されることもあります。実際に被害にあった場合の具合的な対応については、弁護士にご相談ください。
【事業承継の方法】
- 現在ある株式会社の代表取締役をしています(持ち株は筆頭株主(約80%)である私を含め、ほぼ全て私の家族が保有しています。取締役会を設置していますが、代表取締役は私が務め、他の取締役は会社設立に貢献してくれた友人及び私の息子(ほとんど形だけです)が務めています。)。
将来的に経営中の会社の引継ぎ(代表権の譲渡や事業そのものの譲渡)を考えていますが、どのような方法が考えられますか。 - 大きく分けて、①同族に引き継がせる場合(子ども、親戚に引き継がせたい場合)、②企業内の他の者に引き継がせる場合(共同経営者や他の取締役)、③第三者に引き継がせる場合が考えられます。
【各方法のメリット・デメリット】
Q.それぞれのメリット、デメリットについて教えてください。
A.①同族に引き継がせる場合
1.メリット
・同族による経営権交代であるため、いわゆる代替わりという形で自然な形で承継が可能。
・取引相手から疑問を持たれにくい。
2.デメリット
・対象者が適格者であるかどうかわからない。
・ノウハウ等の財産が重視される会社である場合には対象者がノウハウに対する知識を有していないことが多い。
・株式が相続の対象である場合、相続を巡る別の争いが生じやすい。
②企業内の他の者に引き継がせる場合
1.メリット
・企業内の実情に精通している者に対する承継であるため、安心して承継させることができる。
・ノウハウ等が重要視される場合であっても対応可能。
2.デメリット
・株式譲渡の場合、対象者が十分な株式購入資金を有していないことがある。
③第三者に引き継がせる場合
1.メリット
・広く対象者を募ることができる。
2.デメリット
・同族経営である場合、事業対価等が把握しにくく価格交渉がまとまりにくい。
【各方法の手続】
- それぞれどのような方法によることが考えられますか
- 事業承継の方法にもよりますが、株式取得、代表取締役の交代、事業譲渡等が考えられます。以下、それぞれのケースについて検討してみましょう。
【同族に引き継がせる場合】
同族による事業承継は、対象者が取締役である場合(例えば、取締役がご質問内容記載の息子様である場合)には、自らが代表取締役を辞任し(取締役として残ることは差し支えありません)、取締役会により対象者を代表取締役に選任することができます。
また、対象者に対する株式譲渡により対象者が筆頭株主となり、自らが取締役に選任されるよう株主総会決議を得て取締役に就任することもできます。
その他、相続等による株式の取得も考えられます。
【企業内の第三者に引き継がせる場合】
企業内の第三者による事業承継は、①と同様、対象者が取締役であれば(例えば、取締役がご質問内容記載の友人である場合)には、自らが代表取締役を辞任し、対象者を代表取締役に選任する取締役会決議を得て経営権の譲渡をすることができます。他方、取締役でない場合には、対象者に株式譲渡をし、株主総会決議で対象者が取締役に選任されるように決議を経れば①と同様になります。対象株式の譲渡に取締役会決議あるいは株主総会決議が必要である場合も多いですが、対象者が息子様が事実上形だけのものであり、ご質問者様に賛同されると考えられるため、取締役会の承認はもちろん、ご自身が80%の株式を保有していることからも株主総会決議も問題なく認められるでしょう。
【第三者に引き継がせる場合】
第三者に事業承継させるには、株式譲渡による場合、事業譲渡による場合、及び会社分割による場合が考えられます。
株式譲渡による場合は、買収いわゆるM&Aによる経営権取得ということになります。前述のように、株式譲渡に取締役会、株主総会決議が必要である場合であっても問題はないでしょう。
事業譲渡による場合、事業の全部あるいは一部を譲渡することになります。ご質問の例ですと、全部の譲渡ということになります。
この場合、会社の財産・債務を個別に移転させるものになり、株主総会の特別決議が必要になりますが(約66%)、80%の持ち株を有している以上、問題はありません。
吸収分割は包括的に権利義務を移転させるものであり、個別に財産・債務を移転させるかどうかという点で事業譲渡と異なります。吸収分割も事業譲渡と同様、株主総会の特別決議が必要になりますが、前述のように、この点は問題ないでしょう。まずは、誰に何を譲渡したいのか等を明確にされた上でご相談ください。