法律相談事例
相続・遺言に関する相談
【相続人となる者と法定相続分】
- 父方の伯母が先日亡くなりました。伯母は既婚ですが夫の間に子どもはおらず、遺言書を作っていません。父方の祖父母は10年以上前に亡くなっています。
父のきょうだいは、父の姉である伯母、父、父の弟である叔父の3人です。誰が伯母の相続人になりますか。
また、それぞれの法定相続分はどうなりますか。 - 民法上の法定相続分は以下のとおりです(民法900条)。
相続人 配偶者の相続分 相続人の相続分 第1順位 被相続人の子 2分の1 2分の1 第2順位 被相続人の直系尊属 3分の2 3分の2 第3順位 被相続人の兄弟姉妹 4分の3 4分の3 同順位の相続人の相続分は平等です。また、被相続人の兄弟姉妹については、父母の一方が同じ場合は双方とも同じ場合の2分の1となります。
本件では、父と叔父は被相続人の伯母から見て弟2人であり、2人とも同じ両親から生まれているので、法定相続分は伯母の夫が4分の3、父と叔父がそれぞれ8分の1です。
【亡父名義の実家の売却】
- 両親は5年以上前に亡くなっており、実家は空き家になっています。空き家になった実家の土地と建物の名義は父のままで、相続人の私と妹は、空き家を売却したいと思っていますが、このままで売却できますか。
- 亡くなった父親の名義のままで売却することはできず、相続人の名義に変更してから売却することになりますので、相続人の2人で遺産分割協議をして相続登記の手続きをしなければなりません。また、実家を売却する予定ということなので、誰が売却代金を取得するのかも考えながら遺産分割協議をする必要があります。
【相続放棄・限定承認】
- 私が幼い頃に両親が離婚し、父に引き取られて母とは音信不通でした。1年ほど前に母が亡くなったようで、消費者金融から私のところに母親が借りていたという数百万円を支払ってほしいと連絡がきています。どのように対応したらよいでしょうか。
- 相続すると、預貯金のようなプラス財産だけでなく、借金のようなマイナス財産も取得することになります。マイナス財産の取得を拒む方法としては、相続放棄と限定承認があります。
相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続しません。
限定承認をすると、マイナスの相続財産については、相続人がもともと持っていた財産からは支払うことなく、プラスの相続財産で支払える分だけ支払うことになりますが、相続放棄に比べると手続きが複雑です。
いずれも相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てなければならないので、早急に遺産を確認して、相続するのか拒むのかを決める必要があります。
長い間音信不通で遺産の確認に時間がかかる場合は、家庭裁判所に期間伸長の申立てをすることができます。
【遺産分割手続の流れ】
- 父が亡くなり、母と私と弟が相続人です。父の遺産の分け方について3人で話をしたのですが、私と母・弟の意見が対立して話がまとまりません。このような場合にどのような手続をしたらよいでしょうか。
- 相続人間で話がまとまらない場合は、相談者を申立人、母と弟を相手方として、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることになります。
調停では、男女2名の調停委員が間に入って、双方から提出される遺産に関する資料等をもとに、双方の話を聞きながら手続きが進められます。
一方が出頭せず話ができない、あるいは双方の合意が得られなかった場合は、調停で提出された資料等をもとに、裁判所が審判で遺産分割方法を決めることになります。
【特別受益】
- 半年前に父が亡くなりました。遺言書はありません。母はすでに亡くなっており、父の相続人である私と妹で遺産分割の話をしています。妹は結婚した後、住宅を購入するときに、父から1000万円をもらっています。今回の遺産分割でこの1000万円を考慮してもらわないと不公平ではないでしょうか。
- 被相続人から受けた遺贈や、生計の資本として生前に受けた贈与は特別受益となる可能性が高く、具体的には、結婚時の支度金や結納金、住宅購入費や事業資金の贈与、高等教育の教育費等があります。相続人の一部がそのような贈与を受けていた場合に、それを考慮に入れなければ相続人間の公平を害することになります。
本件では、妹が住宅購入の際に父からもらった1000万円は特別受益となる可能性が高く、これが特別受益となる場合に妹のおおよその相続分は、(遺産総額+特別受益1000万円)×相続分1/2-特別受益1000万円となります。
【寄与分・特別寄与料】
- 私は実家の近くに住んでいるので、毎日のように実家に行って母の介護をしていました。私には兄が1人いますが、兄は遠方に住んでいることを理由に母の介護は私に任せきりでした。すでに父は数年前に亡くなっていて、つい先日、遺言書を作成しないまま母も亡くなりました。私が母を介護したことは母の遺産分割手続では考慮されないのでしょうか。
また、私の夫も頻繁に母の介護をしていましたが、そのことも遺産分割手続で考慮されないのでしょうか。 - 被相続人の財産形成に協力したり療養看護に尽くしたりした者とそうでない者が法定相続分どおりに取得すると不公平が生じることがあります。そこで、遺言書がない場合でも、相続人については寄与分、相続人以外については特別寄与料を考えることができます。
①寄与分について
寄与分として認められるためには、「特別の寄与」でなければならず、夫婦や親子として通常期待される程度を超えていることが必要となります。相続人に寄与分が認められれば、寄与分に相当する遺産を相続人が取得し、遺産から寄与分を差し引いた残りの遺産について、寄与分を取得した者を含めて相続人を含めて法定相続分を踏まえて分けることになります。
相続人間で協議できないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。寄与分だけでなく遺産分割そのものの協議ができないときは、遺産分割の調停を申し立てて、寄与分を含めた遺産分割方法を決めます。
調停で解決できない場合は、当事者双方の話や調停で提出された資料等をもとに、裁判所が審判で決めることになります。
②特別寄与料について
相続人以外の親族の貢献についてはこれまで民法の規定がなかったのですが、民法改正により令和元年7月から特別寄与料の制度が導入されました。
「親族」とは6等親内の血族、配偶者、3親等以内の姻族であり、寄与分と同様、「特別の寄与」があったことが必要です。
当事者間の協議ができないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることができますが、寄与分とは異なり、相続の開始及び相続人を知ったときから6ヶ月以内に、または相続開始から1年以内に請求しなければならないので注意が必要です。
【遺言書の検認】
- 私は7の事例の長女です。父が亡くなり、実家の仏壇に父の自筆の遺言書がありました。どうしたらよいですか。
- 自筆証書遺言を発見した相続人は、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を請求することになります。
検認とは、相続人に対して遺言その存在や内容を知らせるととともに、遺言書の形状や筆跡や記載内容等を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きであって、遺言が有効か無効かを決定する手続きではないので、検認後に遺言の有効性を争うことは可能です。
【遺留分】
- 私は7の事例の長男です。父は「遺産を全て長女に相続させる」という遺言を作成して亡くなりましたが、私が何ももらえないのは納得できません。私はどのような手続ができますか。
- 1人の相続人に遺産の全てを相続させるという遺言がある場合でも、兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」があり、遺言によっても侵害できない最低限の取り分が決められています。
直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外は2分の1です。
本件では、遺留分が2分の1、法定相続分が2分の1なので、父親の遺産の4分の1が遺留分となります。そして、長男が遺留分侵害を主張する場合は、相続の開始及び遺留分を侵害する遺言があることを知ったときから1年以内に、長女に遺留分侵害額請求権を行使することになりますが、請求した事実を明確にするために、内容証明郵便で請求するのが一般的です。請求された長女は、遺留分侵害額に相当する金銭を長男に支払うことになります。
【自筆証書遺言の保管制度】
- 自筆証書遺言を保管してくれる制度があると聞きました。どのような制度でしょうか。
- 自筆証書遺言を法務局に保管してもらう制度で、令和2年7月10日から始まりました。
保管手続きについてですが、自筆証書遺言を作成し、封筒に入れずに自ら法務局(本人の住所地、本籍地、所有不動産がある場所のいずれかの法務局)
に出向いて保管の申請をします。手数料は遺言書1通につき3900円です(令和5年11月時点)。
保管制度を利用することにより、遺言書の紛失の心配がなくなるほか、家庭裁判所での検認が不要となります。しかし、法務局では決められた形式で作成されているか
どうか以外は確認しないので、遺言書の有効性等が保証されるわけではなく、また、自筆証書遺言を保管した後に内容が異なる遺言書を作成していれば、
後に作成した遺言書が優先されます。